東京都不健全図書指定に対して送った反対意見メールの実例 その2

前回の記事で、私は東京都青少年健全育成審議会という東京都の不健全図書を決める会議を2016年11月から2020年2月までの間、ほとんどの回を傍聴していることを書きました。

前回の記事を書いたあと、「そういえば、自分は何回傍聴したんだろう?」と思い、数えてみました。

2016年11月から2020年2月まで東京都青少年健全育成審議会は40回開催されました。私はそのうち37回傍聴したことになります。

 

ただし、東京都青少年健全育成審議会は、会議の最初と最後しか傍聴できないのです。不健全図書を決める話し合いをしている時間は非公開とされていて、傍聴人は会議室から退席して、不健全図書を決める話し合いが終わるまで待機場所で待つことになっています(用事のある人は、退席のタイミングで帰ってもかまいません)。議事録が東京都のサイトで公開されて初めて、不健全図書についてどんな話し合いがあったのかを知ることができます。

 

●2件目のメール●

今回紹介するのは、旧基準と新基準のダブル適用となったケースへの反対意見です。

2017年10月に不健全図書に指定された「監禁された優等生姉妹」についてです。

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監禁された優等生姉妹(吉澤瑠偉)

これまで新基準が適用された本は3冊ありますが、この本は3冊目です。

この時の不健全図書指定について、私は手続きに不服があったので、そのことを書いてメールを送りました。

 

議事録引用の前に「旧基準」「新基準」「専門委員」の用語を解説します。

用語を知っている人は、解説をとばして議事録に進んでいただいて大丈夫です。

 

【用語解説1】「旧基準」(または「1号基準」)とは

従来の基準。2010年に条例が改正されたときに第8条第1項第1号になったので「1号基準」とも呼ばれる。

「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」

 

【用語解説2】「新基準」(または「2号基準」)とは

2010年の条例改正で新しくできた基準。条例の第8条第1項第2号なので「2号基準」とも呼ばれる。

「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして、東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」

これまでに新基準が適用されたのは2014年5月、2017年3月、2017年10月の3回。

 

【用語解説3】「専門委員」とは

ある図書が新基準に該当するかどうかを審議会に諮問する場合は、「専門委員」という人が審議会に出席し、その作品の芸術性、社会性、学術性、諧謔的批判性等の趣旨に関する事項を調査した結果を報告する、というルールになっている。

 

 

第688回東京都青少年健全育成審議会議事録(2017年10月開催)

https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/jakunenshien/singi/kenzensin/gijishiryou/688/688gijiroku.pdf

(PDF)

 

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第688回東京都青少年健全育成審議会議事録より抜粋

 

「A専門委員 今回の図書について、私は指定やむなしだと思うんですが、少し基準が甘くなってきたような気もします。一番最初に適用した図書は確かに近親強姦で納得、という感じでした。前回のものと比べると、描写等は弱いかな、という感じもします。ただやはり、我々は青少年というと、どうしても16歳から18歳の青少年に何となく感じてしまい、それだったらいいんじゃないのという見方もあると思うんですけれども、やはり普通に販売されているとこだと考えると、例えば漫画の好きな子だったら、未就学でも字がちょっと読めれば見るでしょうし。確かに、こういう漫画本は今、ビニール袋がかかっていますので、誰でも立ち読みはできないと思いますが、買えることは買えるわけですね。それを家に持って帰えって、小さい子が見たりしたらどうかなという視点で私は考えたんです。以前だったら問題ない、という意見もあったんじゃないかな、という気もします。それは今、私が感じた論点です。」

 (第688回東京都青少年健全育成審議会議事録より抜粋)

 

 

A専門委員は「16歳から18歳なら読んでもいいという見方もあると思うが、未就学の小さい子が見たらどうかという視点で考えた(要旨)」と説明しています。

未就学児が読んだらどうかと思うからといって、16歳から18歳の権利を制限する理由になるのでしょうか? だいたい、この表紙の本を小学校入学前の子が買うことを心配するとは、どういう状況を想定しているのでしょうか。そばに保護者もついておらず、小学校入学前の小さな子が一人でお小遣いを持って本屋に来て、1冊700円以上するこの本を買う(この本の価格は694円プラス税だそうです)、と言うのですよね?

絶対にあり得ないとは言えませんが、あくまでもこの専門委員の想像上のことです。行政の事業を決定する際には、事実に基づいて判断するべきで、現状調査もせず想像を根拠に判断するなどあってはならないことです。

小学校入学前の幼児がこの本を買うのを防ぐには、東京都政としてわざわざ条例を運用して18歳未満にこの本を見せることを禁止する決定を出し、書店や問屋に郵便で通知を出す(通知の手段は郵便を利用しています)しか方法がないことなのでしょうか? まず、幼児がこの本を買う事例が頻発して都民の生活に影響を及ぼすということが起きるとはにわかに信じられませんし、もし仮に幼児が買おうとしたら誰か大人が「この本は子供向けじゃないよ」と言ったり、「おうちの人と一緒に来てね」と言ったりして、買うのを止めるのが現実的じゃないでしょうか(必ずしもそうするとは限りません、しかし繰り返しになりますが、幼児がこの本を買う可能性があるから条例を適用する必要がある、という言い分のほうが現実離れした想定であり、条例の濫用ではないだろうかと感じます)。

「以前だったら問題ない、という意見もあったんじゃないかな、という気もします。それは今、私が感じた論点です。」とも説明しています。専門委員の主観・思いつきで、以前と今とで基準が変わってしまっています。基準を恣意的に解釈するのはご遠慮いただきたいです。

 

東京都条例の青少年の定義は「18歳未満」で、つまり17歳までなのです。18歳は青少年ではないのです。この専門委員は「16歳から18歳の青少年」という発言を繰り返していたので、厳密さに欠ける委員だという印象を私は受けました。

気になったので、メールを送ることにしましました。

議事録が公開されたのは2017年12月のことでしたが、そのころ私があまりにも忙しく、年明けの4月になってやっと落ち着いてメールできたという次第です。

  

---メールここから

 

件名:東京都青少年健全育成審議会 ご担当者様

2018/4/9, Mon 13:11

 

青少年・治安対策本部 御中

 

平成29年10月10日開催、第688回東京都青少年健全育成審議会の議事録を

読みました。疑問点があり、ご連絡しました。

この回の答申では「ムーグコミックス ピーチシリーズ 監禁された優等生姉妹」という図書に

条例第8条第1項第2号が適用されています。

私はこの2号適用という結果に対して不服があり、反対です。

理由は、充分な審議が行われたとは考えられないためです。

 

この回では、諮問図書に条例第8条第1項第2号の規定を適用するか審査するため、

専門委員が呼ばれています。

議事録の11ページ以降で専門委員のかたが意見を述べており、その中で

「16歳から18歳の青少年」とくりかえしています。

東京都では青少年を18歳未満と定義していますが、専門委員のかたは

「18歳未満」という東京都の定義を理解されているのか、不安になりました。

東京都青少年健全育成審議会で諮られる図書は、

18歳なら閲覧してもよいが、17歳に閲覧させるにはふさわしくない、という線引きで

審査していただいているのではないのでしょうか?

行政が図書を青少年に閲覧させないようにと制限を実行するのですから、

基準を厳密に守っていただかなくては困ります。

小さな子にはふさわしくないから、これも制限を、などと言い出せば、

際限なく規制しなければならなくなります。

 

残念ながら、この回に出席された専門委員のかたは

条例を遵守するお考えだとは、あまり思えません。

条例を慎重に運用するためにおいた専門委員というかたが、

条例について、そのようないい加減な姿勢であることは、非常に遺憾です。

 

また、議事録13ページでは、この専門委員のかたは

店頭ではビニール袋がかかっているので立ち読みはできないが買える、

家に持って帰って小さい子が見たら、という視点で考えた、と

2号規定適用と考えた理由を説明しています。

不健全図書の指定は、あくまで流通を規制するものであるにも関わらず、

専門委員の発言は、条例の運用の範囲を越えて、行政が家庭内のことにまで手を出すのを是とする、

問題ある発言です。

専門委員の役割は条例に基づいて審査するのではなく、条例から逸脱し個人的な気持ちを述べる、

そしてその意見が審査結果に反映されるのだとしたら、

非常に恐ろしいことです。

もちろん、自由に意見を述べていただくことは議論が活発になり、結構ですが、

その発言が条例、基準を逸脱しているにもかかわらず審査結果に影響するなどということは

けっして許されないと思います。

 

この専門委員のかたに対しては、不健全図書の規定をよく読み、真剣に臨んでいただきたい、と申し上げたいです。

審査の度に基準が個人的な気持ちで恣意的に変えられてしまうのでは、基準として機能していません。

 

以上、平成29年10月10日開催、第688回東京都青少年健全育成審議会の議事録を読み、

この回の答申に不服がありますので、反対意見をお伝えしました。

受理のほど、よろしくお願いいたします。

 

(住所)

(氏名)

 

---メールここまで

 

今になってメールを読み返すと、議事録を読んだときに、専門委員の発言の意味を私が勘違いした部分もあると思います。

専門委員は「ビニール袋がかかっているので、立ち読みはできない。しかし小さい子が自分で買って持って帰って家で読むことはできる。」という意見だったのかもしれません。

私は専門委員の発言を「店頭では立ち読みできない。しかし(専門委員が言うところの16歳以上の読んでも問題ない人が)買って持って帰って、(家族の)小さい子が見たらどうかという視点で考えた。」と解釈したのです。それで「行政が家庭内のことにまで手を出すのを是とする」と文句を言っています。

たぶん、私が解釈を間違えていますね。

とにかく、専門委員の発言があまりにも自由なのを議事録で知って、これは反対意見を送っておかないとまずい! という気持ちがあったのと、年が明けてすでに4月だったので、これ以上遅くなるのがいやで、正直、推敲もそこそこに送信しました。

 

私のメールの内容は2018年5月の第695回青少年健全育成審議会の議事録29ページに出てきます。

https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/jakunenshien/singi/kenzensin/gijishiryou/695/695gijiroku.pdf

(PDF)

 

ちなみに、この議事録では私のメール以外にも意見が報告されています。「審議会の進め方、手順について改善が必要」とのことで具体的な提案だったようです。「審議会の皆様のご意見をお聞かせください」と書かれていたようですが、青少年課はメール返信はしたのかな? しなかったのかな?